016 作詞のレトリック#04:隠喩

前回もお話ししたとおり、暗喩とは、直接的に比喩とわかる表現を含めないスタイルです。直喩より文学的、抒情的な表現が可能になる一方で、受け手に伝わりにくいリスクもある、ひとつステップを上った表現といえるでしょう。

隣どおし あなたとあたし さくらんぼ

さくらんぼ/大塚愛(作詞:愛)

さくらんぼのイメージといえば1房に2粒。そのイメージを恋愛に見立てたキュートな暗喩ですね。

人生は紙飛行機 願い乗せて飛んで行くよ
風の中を力の限りただ進むだけ

365日の紙飛行機/AKB48(作詞:秋元康)

「人生は紙飛行機」とだけ見れば、なんだかあまりイメージが湧かない気がしますが、その後の歌詞の展開でその意味が明らかになります。少しの風にも影響を受ける、軽々とした紙飛行機ですが、それでも大空を進む様子は、人生を浮かび上がらせるのに充分だといえるかも知れません。

縦の糸はあなた 横の糸は私
織りなす布はいつか誰かを暖めうるかもしれない

糸/中島みゆき(作詞:中島みゆき)

表現技術に圧倒されます。この曲は、ある宗教家の結婚式のために書き下ろされた作品ですが、2巻の糸が織り込まれて布になり、その布が衣服や毛布となって別の誰かを暖める、そうした情景を切々と綴っています。

君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね
肌をくすぐる渚の視線

君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。/中原めいこ(作詞:中原めいこ・森雪之丞)

トロピカルでカラフルな女性たち、ということでしょうか。バブル真っただ中のCMソング。こういうお遊びができるのも、暗喩の良さです。笑

ここに挙げた4作品もそうですが、暗喩は作品そのもののタイトルに使われる傾向があるように思います。カギとなるメッセージを、別の何かに置き換えて表現する。その暗喩がぴったり決まれば、それがその作品の骨格となり、表層ともなるのでしょう。