012 作詞のテーマ#03:すべてをさらけだすモノローグソング

作詞のテーマとして、もうひとつ、どうしても取り上げなければならないカテゴリがあります。ラブソングでも、メッセージソングでもない、自分の心情や価値観を素直に吐露した、モノローグ(独白)的な作品。いわば、作詞における私小説とでもいうべき存在です。

私小説とは、作家自身の体験や価値観、ものの見方などを題材とした小説のこと。多くの場合、作品の主人公は作家本人か、もしくは作家本人が理想形とする人物像であるとされています。古くは『人間失格(太宰治)』、『檸檬(梶井基次郎)』、『破戒(島崎藤村)』、最近だと『東京タワー(リリー・フランキー)』、『小銭をかぞえる(西村賢太)』、『火花(又吉直樹)』などが代表例でしょうか。厳密にいえば、日本で私小説というジャンルが存在しているか、みたいな議論もあったりするんですが、それはそれ。深く掘り下げるつもりがなければ、一応そういうもんだと思っていればいいでしょう。

そして、こうした作品は、歌詞の世界でも一大勢力として君臨しています。カリスマ的な魅力をもつひとりの音楽人が、エンターテインメント作品をつくりこむのではなく、みずからの分身として言葉を発する。そのことが、ファンにとっては、たまらない魅力となっていることはいうまでもありません。

ただ、個人的には、最初からこういう方法論に乗っかるのはオススメできません。初心者のうちは、きっちり作詞のコンポジションを学んで、いくつか習作(練習作品)をつくり切ることが大切だと思うので。そのうえで、自分自身のビジョンを言葉にしたいと望むなら、偉大な先人たちの足跡をなぞることから始めてみるといいかも知れません。

悲しみの果てに何があるかなんて
俺は知らない 見たこともない
ただあなたの顔が浮かんで消えるだろう

悲しみの果て/エレファントカシマシ(作詞:宮本浩次)

淋しさだとか優しさだとか温もりだとか言うけれど
そんな言葉に興味はないぜ
ただ鉄の塊にまたがって揺らしてるだけ
自分の命 揺らしてるだけ

ガソリンの揺れかた/BLANKEY JET CITY(作詞:Kenichi Asai)

生まれたての僕らの前にはただ
果てしない未来があって
それを信じていれば何も恐れずにいられた

未来/Mr.Children(作詞:KAZUTOSHI SAKURAI)

口にする度に泣けるほど憧れて砕かれて
消えかけた火を胸に抱きたどり着いたコタン
芽吹きを待つ仲間が麓にも生きていたんだなあ
寂しい夜温める古い許しの歌を
優しいあの子にも聴かせたい

優しいあの子/スピッツ(作詞・草野正宗)