002 作詞のハードルとは

作詞はそこそこハードルが高い、と前回お話ししました。それはは、素材が豊富に、というより無限にあるからです。だから、どこから手を付けていいのかわからなくなってしまうんです。

ヨシオくんがギターを使って作曲するとき、まずは鳴らしてみるはずです。コードストロークなのか、カッティングなのか。そしてまた、コードの展開も選択肢は限られています。つまり、作曲の作業は、ある意味で、あらかじめ用意されたパーツを取捨選択していくのに似ています。メロディも、選択肢はドレミファソラシドの7つくらい(半音を考えても12個くらい)。それが選択肢のすべてです。

これは例えば、「カレーを作れ」と言われるようなものです。材料も、調理法も、それなりに限られている状況で、つくり始めるわけです。

一方で作詞は、「なんでもいいからメシをつくれ」と言われるようなものです。言葉をつなげて意味を持たせるのが作詞の本来のありかただとすれば、素材の数は作曲やメロディワークの比ではありません。国語辞典の最高峰・広辞苑は、収録語数がおよそ25万語。コードの数、音階の数と比べるまでもないでしょう。そんな中から、何をつくるのか、素材や調理法は何か、すべて自分で考え、答えを出し、実践する必要があるのです。

もちろん、だからといって作曲やメロディワークが作詞よりもカンタンだ、というわけではありません。むしろ、いままで誰も食べたことのない、それでいて最高においしいカレーをつくるのは、ものすごく難しいでしょう。作曲やアレンジは、カレーの調理法と同じように、すでに出尽くしているともいわれています。

つまり、作曲やメロディワークは、限られた素材の中から組み合わせつつ、、オリジナリティを実現する難しさがあります。一方で作詞は、無限に広がる素材から、いちばん適していると感じるものを選び出すこと、それ自体の難しさがある、というわけです。

「内面から生み出せるメロディワーク、コードワークがいつか枯れ果てるんじゃないか、という不安はずっとある。けれど作詞は、そんなことを思ったことはない。」

ビートルズというバンドが音楽の世界に残した数々の業績は、いまさら説明するまでもないでしょう。ソングライティングの中枢を担っていたのは、ジョン・レノンとポール・マッカートニーという2人の天才です。

ポールの音楽が、ポピュラーで社交的。ジョンの音楽は、内向的で自省的。そんなイメージで語られることの多い2人ですが、前述の言葉の主・ジョンは、ソロ活動ではポピュラーでハッピーな作品をいくつも残し、「音楽は世界を救う」と本気で信じて、メッセージを発信しました。そんな彼が無限だと信じたのが、作詞の世界なのです。