001 はじめに

楽器を手にして、音楽の興奮を知り、バンドを組んで、好きなアーティストの曲をいくつかプレイする。何度かステージにも立った。バンドメンバーとの絆も深まり、長くこのバンドを続けたいと願うようになる。多くのバンドにとって、その次にあるのは、オリジナル曲をつくるという作業です。

主人公を紹介しましょう。ヨシオくんです。高校入学と同時に軽音部に入り、ギターとボーカルを担当。初心者でしたが、音楽の魅力にすっかり浸かり、秋の学園祭では、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのコピーバンドでギターボーカルとしてステージデビュー。その後、在学中は、eastern youth、ELLEGARDENなど、ギターボーカルのある曲を次々にプレイ。学園祭や新歓イベントで腕を磨きます。そして高校は卒業。けれどどうしても仲間たちと離れたくない。その願いを共有していた仲間を誘って、バンド結成。そして、オリジナル曲を制作。鼻歌だけで、メロディだけの曲がひとつできました。

ここで、ヨシオくんは途方に暮れて頭を抱えます。この曲を、作品として成立させる最後の作業が待っているからです。作詞。何から手をつけていいのか、さっぱりわかりません。最初からすらすら言葉を繋げられるひとは、そうそういないのです。

ギターなら、さまざま曲をコピープレイを通じて、コードワークやアレンジの方向性はなんとなく身についてくるでしょう。ベースも、コードとベースラインとの関係が、うっすらと見えてくると思います。ドラムだって、リズムパターンとフィルイン、キメと、身につけるべきスキルを、コピープレイを通じて知るはずです。

けれど、作詞だけは、そうした前提となるアクションが見えません。プレイした曲のリリックをどれだけ眺めても、作詞のスキルが身につくとは限りません。むしろ、いろんな曲を知れば知るほど、迷いの度合いがさらに深くなることだってあるでしょう。

それでも、作詞を後回しにしているうちに、オケだけの曲はどんどんたまっていきます。リリックがないと、音源もつくれなければ、ステージに上がることもできません。メンバーからも、早く書けというプレッシャーが押し寄せてきます。とはいえ彼らも、作詞についてはまったくの素人。急かすことはできても、解決することはできません。

筆者は、もともとバンドでデビューしましたが、その後、作詞家、作曲家として活動して、さまざまなアーティストの音楽作品の制作に関わっています。このあたりは、近いうちに、詳しくお話できると思います。

この記事では、ヨシオくんに、作詞の方法論をレクチャーしつつ、作品を仕上げるお手伝いをしていきます。まずは、ひとつ作品を書ききること。できれば、それを通して、作詞の面白さ、奥深さを知って欲しいと思っています。もう、書きたくて書きたくて仕方なくなるくらいに。そして、世の中にたくさんいるであろうヨシオくんのような方にも、同じ経験をしていただければ嬉しいです。