018 作詞のレトリック#06:対句

ひとつの作品には、同じメロディの繰り返しがあることが少なくありません。そんなとき、語句や構造がよく似たふたつの文言をつなげて、対比、対照、強調などの効果を生むのが対句です。言葉としてはなじみがないかも知れませんが、しばしば用いられるテクニックですね。

男はいつも待たせるだけで
女はいつも待ちくたびれて

恋/松山千春(作詞:松山千春)

対句の典型例と言えばこの曲。両句の語感シンクロ具合といい、意味上の関係といい、名詞-副詞-複合動詞という語順の遵守といい、とても美しい展開になっていると思います。「待たせるだけで」と「待ちくたびれて」は、発音はほとんど同じなのに意味は真逆に取れます。両句は完全に並立しているとも読めるし、前者が後者のフリになるともいえる。いずれにせよ、対句表現の魅力と奥深さを余すところなく伝えてくれる歌詞です。

いつかお父さんみたいに大きな背中で
いつかお母さんみたいに静かな優しさで

家族になろうよ/福山雅治(作詞:福山雅治)

こちらも、ほぼ同じメロディに、ほぼ同じ構造の文言を載せているのがわかりますよね。こうすることで、2人それぞれにスポットライトが当たって、互いが互いを引き立てあう効果が見込めます。どちらかしかない場合よりも美しい情景が浮かぶのではないでしょうか。「大きな背中」と「静かな優しさ」は、対句関係というには少し無理があるかも知れませんが、これくらいの崩しはむしろ個性的に映ります。副詞-名詞-助動詞-形容詞-名詞という語順も両句に共通していますね。

笑ってもっとBaby むじゃきにon my mind
映ってもっとbaby すてきにin your sight

いとしのエリ―/サザンオールスターズ(作詞:桑田佳祐)

こちらは、これまでの2曲とは少し異なります。これまでの2曲は、「男」と「女」、「お父さん」と「お母さん」のような、明確な対立軸がありましたね。けれど、この曲の第一句と第二句との間には、特にそうした軸はありません。構造的に、語句の展開や発音(音韻)はかなり似通っていますが、むしろ同じ視点から情景を展開させているように思われます。対比関係を引き立たせるというより、ひとつの情景を強く印象付ける効果が見られます。おそらくは音感の共通性からこのような歌詞になったんだとおもいますが、意味を考えるのも興味深いですね。