007 基本構成#01:Aメロは「事実」を描く

ここからは、それぞれのパートについてもう少し掘り下げてみたいと思います。まずは導入パート。Aメロに相当する部分です。

ここでの役割は、作品の主題につながるキャンバスを示すこと。聴き手に共通のイメージを持たせる部分である、といえるでしょう。たとえば、Aメロのリリックをいくつかみてみましょう。

茜色した陽だまりのなか 無口な風がふたりを包む
歩幅合わせて歩く坂道 いつもあたしは追いかけるだけ

茜色の約束/いきものがかり(作詞:水野良樹)

曲がりくねりはしゃいだ道 青葉の森で駆け回る
遊びまわり日差しの街 誰かが呼んでいる

パプリカ/Foorin(作詞:米津玄師)

乾いた空に続く坂道 後姿が小さくなる
優しい言葉探せないまま 冷えたその手を振り続けた

夢をあきらめないで/岡村孝子(作詞:岡村孝子)

ヨシオくん、これら3つに共通する視点があるのはわかる?

「わかります!どれも、目の前の景色や自分の感覚を描いています。つまり、自分の「五感」で感じとったことを表現している、という共通点があると思います!」

さすがヨシオくん。筆者の思い通りの発言をしてくれます(笑)。確かにこれらの表現は、景色や感覚を描いていますね。では、もう少し一般化して考えてみましょう。

Aメロは主題のためのキャンバスだと説明しました。そのための共通のイメージを示すために、景色や感覚を描くことはきわめて有効なのです。なぜなら、「事実」を描いているからです。

『世界に一つだけの花』も、例に挙げた3作品も、Aメロは、事実の描写そのものです。少なくとも、「何を言っているのかわからない」「どんなイメージを持てばいいのかわからない」ということはないはずです。事実を描くことは、聴き手にとってとてもわかりやすいわけです。

これは、Aメロの常套手段といえます。同様の作品は他にもたくさんありますから、探してみてください。